星になったおかあさん

古びた神社の裏手、誰も気づかないような静かな場所に、小さな家族が暮らしていました。

お母さん猫はキジトラ模様の優しい瞳をした猫。
三毛猫、サバトラ、そしてアメショー柄の三匹の子猫たちは、元気に遊んでは、お母さんに甘え、眠りにつくのでした。

お母さん猫は、決して多くを語るような猫ではありませんでした。
けれど、寒い夜には自分の体で子猫たちを包み、雨の日には濡れた子を丁寧に舐めて温めてあげる――
それが、お母さんの「愛」でした。

秋が深まるある日、お母さんの体は少しずつ弱っていきました。
かつては高い塀の上も軽々と飛び乗れたのに、いまは足元もふらつくほど。
それでもお母さんは、子猫たちの前では弱音を見せませんでした。

ある夜、星がいつもより近くに感じられるほど澄んだ空の下で――
お母さんは、そっと子猫たちに寄り添って、眠るように静かに旅立ちました。

朝、冷たくなったお母さんの体に、三匹の子猫はすがって泣きました。
声にならない小さな鳴き声が、神社の森に響きました。

でもその日の夜、ふと空を見上げると、一番輝く星がぽつんと光っていました。
三匹の子猫は、それが「おかあさん」だと分かりました。

「ずっと見てるよ」
そう言ってくれているように、やさしく、あたたかく、光っていました。

それから三匹の子猫たちは、寄り添いながら生きていきました。
ときどきケンカをしたり、寒さに震える夜もありました。
けれど、夜空にお母さんの星を見るたびに、またがんばろうと思えたのです。

お母さんはもうそばにいない。
けれど、お母さんの「愛」は、星になって、ずっと彼らを見守っていました。

時は流れ――

三毛猫の「ミミ」、サバトラの「ソラ」、アメショーの「ルル」は、それぞれ立派な成猫になっていました。

ミミは神社の近くで優しい人に出会い、今では縁側で日向ぼっこをする日々。
ソラは人の少ない町外れの畑で、農家のおじいさんと一緒に暮らしています。
ルルは街のカフェで看板猫として、毎日たくさんの人に撫でられています。

それぞれの場所で、それぞれの幸せを見つけた三匹。
でも、三匹の心にはいつも同じ「穴」が空いていました。

――おかあさんに、もう一度だけ会いたい。

そんな想いを胸に秘めながら、三匹はある冬の夜、ふしぎな夢を見ました。

夢の中、彼らは小さかったころに戻っていました。
あの神社の裏、苔むした石の上で、おかあさんが静かに微笑んでいるのです。

「みんな、元気にしてたかい?」
おかあさんの声は、風のようにやさしく、心にすっと染みわたりました。

三匹は走って駆け寄り、涙を流しながらすがりました。
「おかあさん、さみしかったよ…」
「もっと一緒にいたかった…!」

おかあさんは、ひとつひとつに優しく頷き、三匹をぎゅっと舐めて、こう言いました。

「ありがとう。ちゃんと生きてくれて、ありがとう。」

その瞬間、夢の中にいたはずの彼らは、目を覚ましました。

目を開けると、それぞれの空に、大きくて明るい星が光っていました。
三匹は、違う場所にいても、同じ星を見上げていました。

その星が教えてくれたのです。
「どんなに離れていても、愛はつながってる」と。

それ以来、ミミも、ソラも、ルルも、それぞれの居場所で、
困っている小さな命を見つけると、おかあさんがしてくれたように寄り添い、守ってあげるようになりました。

おかあさんの愛は、今も生き続けているのです。
三匹の中に、そしてこれから出会う小さな命たちの中に――。

夜空の星は、今日も変わらず優しく光っていました。


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