婚活を笑えなくなったときに読む一冊—宮島未奈『婚活マエストロ』が突きつける「本気」の正体

こんにちは。ミサゴパパです。

正直に言えば、最初は少し身構えていました。
「婚活」「マエストロ」「三文ライター」――どこか軽やかで、よくある“婚活あるある小説”なのだろうと。
けれど、宮島未奈さんの『婚活マエストロ』は、そんな予想を気持ちよく裏切ってくれました。

この物語の主人公は、40歳の三文ライター・猪名川健人。
生活のために引き受けた仕事は、怪しげな婚活会社「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事を書くこと。
安っぽいホームページ、雑居ビルの一室、手作り感満載の婚活パーティー。
どう考えても胡散臭い。
猪名川が冷めた目で現場を観察する気持ちは、読者である私にもよく分かります。

ところが、その空気を一変させる人物が現れる。
姿勢がよく、やけに場違いなほど美しいスーツ姿の女性、鏡原奈緒子。
彼女はマイクを握り、こう言い切ります。

「私は、本気で結婚を考えている人以外は来てほしくありません」

この一言で、この小説は“婚活コメディ”から“覚悟の物語”へと舵を切ります。
そう、彼女こそが婚活業界で知らぬ者はいない〈婚活マエストロ〉だったのです。

鏡原奈緒子という人物は、とにかく厳しい。
情に流されない。
曖昧な言葉を許さない。
「とりあえず」「いい人がいれば」そんな姿勢を一刀両断する。
けれど彼女は決して冷酷ではありません。
むしろ、誰よりも婚活に誠実で、結婚という制度を甘く見ていない。

猪名川は取材を進めるうちに、彼女の言葉に何度も打ちのめされます。
それは婚活参加者に向けられた言葉であると同時に、
人生をどこか斜に構え、傷つかない距離を保って生きてきた彼自身への問いかけでもあるからです。

この作品が秀逸なのは、婚活を“救済”として描かない点です。
結婚すれば幸せになる、などという安易な結論は一切ない。
むしろ結婚とは、
「相手の人生を引き受ける覚悟」
「自分の不完全さを引き受けてもらう覚悟」
その重さを真正面から描いています。

物語後半、猪名川自身が婚活の当事者として向き合わざるを得なくなる展開は、非常に胸に刺さりました。
40代という年齢、仕事の不安定さ、自信のなさ。
「選ぶ側」だと思っていた人間が、いつの間にか「選ばれる側」に立たされている現実。
これは、家庭を持った今の自分にとっても、決して他人事ではありません。

若い頃は、結婚なんて勢いでどうにでもなると思っていました。
でも年を重ね、仕事や家族、責任を背負うようになると分かる。
結婚はゴールではなく、スタートですらなく、
ただ“覚悟を持ち続ける行為”なのだと。

鏡原奈緒子の厳しさは、その覚悟を最後まで手放さない姿勢そのものです。
だからこそ彼女は孤独で、だからこそ信頼できる。
彼女の存在は、婚活という舞台を借りて、「人生を真剣に生きるとは何か」を読者に突きつけてきます。

『婚活マエストロ』は、結婚を勧める小説ではありません。
婚活を肯定する小説でもありません。
これは、
「本気で何かを望むとはどういうことか」
「覚悟を避け続けた先に、何が残るのか」
それを静かに、しかし容赦なく問いかけてくる物語です。

婚活中の人には、正直、少ししんどい一冊かもしれません。
でも、結婚している人、家庭を持っている人にこそ読んでほしい。
自分はあのとき、どんな覚悟でこの人生を選んだのか。
その問いを、もう一度胸に刻ませてくれるからです。

軽やかな文体の裏に、ずっしりとした人生の重み。
読み終えたあと、笑えないけれど、なぜか背筋が伸びる。
そんな一冊でした。

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