人生はリセットできないゲームだった──『令和元年の人生ゲーム』を読んで

こんにちは。ミサゴパパです。

麻布競馬場さんの『令和元年の人生ゲーム』を読み終えて、しばらく本を閉じたまま考え込んでしまいました。
読みやすい文体なのに、心の奥にじわりと残る。そんな不思議な読後感のある一冊でした。

タイトルにある「人生ゲーム」という言葉。
子どもの頃に遊んだ、サイコロを振って進むあのボードゲームを思い浮かべます。
就職、結婚、出世、失敗……。止まったマスによって、人生が大きく左右される。
でもこの本が描いているのは、やり直しもチートも効かない、現実の人生ゲームです。

登場する若者たちは、いわゆる「意識が高い」世界に身を置きながらも、
どこかで息苦しさや違和感を抱えています。
ベンチャー企業、キラキラした人間関係、
「自分は何者かにならなければならない」という強迫観念。

その中で描かれる人物たちは、
成功しているように見えても、常に他人と比較し、
少しの遅れや選択ミスで一気に転落する不安を抱えて生きています。
まるで、サイコロを振る手が止まらないゲームのように。

読んでいて印象的だったのは、
「勝っているように見える人ほど、実は脆い」という描写です。
肩書きや収入、SNSでの見え方が、その人の価値を決めてしまう世界。
そこから一歩外れた瞬間、
自分が空っぽだったことに気づいてしまう怖さが、静かに描かれていました。

50代のサラリーマンとして生きてきた私にとって、
この物語は「若者の話」でありながら、決して他人事ではありませんでした。
昭和・平成・令和と時代は変わっても、
「正解の人生」を探して迷う構図は、実はずっと同じなのかもしれません。

ただ一つ違うのは、
今の若い世代は、そのゲーム盤があまりにも複雑で、
しかも途中退場が許されにくいこと。
失敗したら「自己責任」で片付けられてしまう世界の冷たさです。

『令和元年の人生ゲーム』は、
「こう生きるべきだ」という答えを提示してくれる本ではありません。
むしろ、
答えがないことを突きつけてくる小説だと思います。

それでも読み終えたあと、
少しだけ肩の力が抜けた自分がいました。
人生は確かにゲームのようだけれど、
必ずしも“勝たなくていい”のではないか。
止まったマスで、立ち止まって考えてもいいのではないか。

そんな風に思わせてくれる一冊でした。

もし、
今の生き方にどこか息苦しさを感じている人がいたら。
若さや成功に焦りを感じている人がいたら。
この本は、きっと心に引っかかると思います。

人生ゲームは続きます。
サイコロを振るのも、少し休むのも、
結局は自分で選ぶしかないのですから。

そしてもう一つ、この本を読んで強く感じたのは、
「人生は前に進んでいるようで、実はずっと同じ場所を回っているのではないか」という感覚でした。

大学を出て、会社に入り、評価され、ポジションを得る。
そのレールの上を走っている限りは安心だけれど、
一度つまずくと、途端に足場が崩れてしまう。
登場人物たちの姿は、そんな不安定さを常に抱えています。

若い頃の私は、
「ちゃんとした大人」になれば、この不安は消えるものだと思っていました。
でも実際には、年齢を重ねても、立場が変わっても、
別の形で同じ不安が顔を出します。
この小説を読んでいて、
その事実を改めて突きつけられた気がしました。

ただ、だからこそ思うのです。
人生ゲームは、必ずしもスピードを競うものではない。
他人より早くゴールする必要もない。
途中で立ち止まって、
「今、自分はどこにいるのか」を確かめる時間があってもいいのではないか、と。

麻布競馬場さんの描く世界は、
決して優しくはありません。
希望を大きな声で語ってくれるわけでもありません。
それでも、
現実から目を逸らさず、静かに「考える余白」を残してくれます。

『令和元年の人生ゲーム』は、
人生に疲れたときに背中を押してくれる本ではなく、
隣に座って、一緒に黙り込んでくれる本なのかもしれません。

だから私は、この本を、
「何かを成し遂げたい人」だけでなく、
「少し立ち止まっている人」にも勧めたいと思いました。

人生は一度きりのゲームです。
セーブもリセットもできません。
それでも、
どのマスで何を考えるかだけは、自分で選べる。

そう信じながら、
明日もまた、サイコロを振ってみようと思います。

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