人の心に根を張る物語──東野圭吾『クスノキの女神』を読んで

こんにちは。ミサゴパパです。

東野圭吾さんの新作『クスノキの女神』を手に取ったのは、書店でその表紙に描かれた大きなクスノキのイラストに心を奪われたからでした。ページを開けば、そこには緑の匂いと土の温もりが立ちのぼるような物語が広がっていました。

 舞台は、町の人々から長年大切にされてきた一本のクスノキ。その木には「願いを叶える女神」が宿っているという言い伝えがあり、物語はその存在を巡って動き出します。ミステリー作家としての東野圭吾さんらしい謎の構築はもちろん、今回は人と人のつながり、そして人と自然のつながりに焦点が当たっている印象を受けました。

 読んでいて何度も立ち止まらされたのは、「願いを叶える」という言葉の意味です。叶えることは、必ずしも奇跡や魔法のような出来事だけを指すわけではありません。そこに至るまでの過程や、自分自身が変わることこそが、本当の「叶う」ということなのかもしれない──そんな風に考えさせられました。

 登場人物たちは皆、それぞれ事情や傷を抱えて生きています。誰かのために動くとき、必ずしも純粋に善意だけで動けるわけではない。それでも小さな勇気や行動が、やがて大きな和をつくっていく。その過程が丁寧に描かれ、読み終えたときには胸の奥にじんわりと温かいものが残りました。

 もし日常の中で立ち止まり、自分の願いや周囲とのつながりについて考えたいとき、この本はきっと良い道しるべになります。読み終えた後、私はふと、自分の身近な木々や風景に目を向けてみようと思いました。それはまるで、自分の中にも「小さな女神」が根を張ったような感覚でした。

この本を読み終えた翌日、何気なく近所の公園を歩いていると、大きなクスノキではないものの、長年そこに立ち続けているケヤキの木が目に入りました。幹に手を当ててみると、ひんやりとした感触の奥に、言葉では言い表せない「静かな力」を感じます。木は何も語りませんが、そこに立ち続けることで、人に何かを与えている──そんな存在なのだと、物語を通して気づかされたのかもしれません。

 日常の中では、自分の小さな願いや想いはつい後回しになりがちです。でも、『クスノキの女神』はその願いと向き合う時間の尊さをそっと教えてくれました。それは派手な奇跡ではないけれど、確かに人生を少し変える力を持っています。

 この作品に描かれる「女神」は、特別な誰かのためにだけいるわけではありません。読み手それぞれの心に寄り添い、そっと背中を押してくれる存在です。私もまた、自分の中に根を張ったその「小さな女神」を大切に育てながら、日々を歩んでいこうと思います。

作品基本情報

  • タイトル:クスノキの女神
  • 著者:東野 圭吾(Keigo Higashino)
  • 出版社:実業之日本社
  • 刊行日:2024年5月23日
  • ジャンル:ヒューマンドラマ/ミステリー/ファンタジー要素
  • ページ数:352ページ(単行本)

おすすめポイント

  • 東野圭吾の新境地
    ミステリーの枠を超え、人と自然、人と人の絆を温かく描く物語。
  • 「願いを叶える」というテーマの深み
    願いが叶う意味を、現実的かつ哲学的に考えさせられる。
  • 心に残る登場人物たち
    傷や事情を抱えたキャラクターたちが、読者の感情を揺さぶる。
  • 癒しと余韻
    読後には静かな感動と、身近な自然に目を向けたくなる優しい余韻が残る。
  • 装丁の美しさ
    青を基調とした幻想的なカバーアートが物語世界を象徴している。
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