「フーガはユーガ」伊坂幸太郎 感想

ミサゴパパです。今回は伊坂幸太郎氏の「フーガはユーガ」です。

伊坂さんの作品は、特有のユーモアを交えた描写がありますが、本書は基本的には暗い話が多いと言えます。登場する風我や優我、小玉、ワタボコリの親たちは、どれもろくでもない人たちであり、それぞれが苦しむ存在です。

家族という絆は、血縁関係に拘らず、忘れた頃に様々な形で再び現れるものです。本書でも同様の展開が繰り広げられ、物語の暗さを一層引き立てています。しかし、この物語は『闘いと再生』を描いたものです。主人公たちは、自分たちを傷つける邪悪と戦い、その過程で再び生き返り、幸せを掴む姿が描かれています。

確かに暗い要素はありますが、ただ苦しいだけの物語ではなく、現実味のあるストーリーには明確な救いが用意されています。このように、伊坂さんは一流のエンターテイナーとして、読者が軽やかに物語を楽しめるように仕上げています。物語は基本的に優我の視点で進行しますが、彼自身が嘘を交えて語っていることを前提にしています。高杉という聞き手が疑問を投げかけることで、読者は嘘が正体を現すのではないかと思い込むことがあります。

しかし、優我が自らの嘘を明かしていない限り、全ての真相が明らかにされることはありません。それでは、優我の語る嘘は何であり、それが物語にどのような影響を与えるのか。ミステリー好きな方にとっては、この設定が特に楽しめる要素であり、想像力をかきたてながら読むことも面白いでしょう。伊坂さんの作品では、誰もが自身の人生の主人公であり、その背後には様々な事情が存在していることに気付かされます。些細な場面に登場する人々にも、普通ではない背景がありながらも、彼らは必死に生き抜いています。

一度登場したキャラクターが物語の後半でも自身の人生を歩んでいる描写があります。これは、伊坂さんの作品の魅力の一つであり、誰もが自分の物語を進めていることを感じさせるものです。最近読んだ『逆ソクラテス』でも同様の感覚を味わいました。最近の伊坂さんの作品には、特殊能力が登場することもありますが、それでも明るい話とは言い難いです。しかし、彼はエンターテイメントとして成り立つような描写をし、救いを提示してくれる存在です。その点において、私は伊坂さんに感謝しています。

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ミサゴパパの人生楽ありゃ苦もあるさ

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