
こんにちは。ミサゴパパです。
先日、第172回直木賞を受賞した伊与原新さんの『藍を継ぐ海』を読みました。
読んだ後、胸の奥に静かに染み込んでいくような余韻が残る、とても優しく、深い物語でした。
徳島・北海道・山口と、日本各地を舞台に描かれる五つの短編。それぞれの物語は独立していながら、共通して「自然の長い時間」と「人間の短い時間」が交差する瞬間が描かれています。
どの章にも科学的な背景があり、それが人生の転機にいる人たちの心情をそっと照らしてくれるのが印象的でした。
今回は、ネタバレのない範囲で本作の魅力をご紹介しながら、直木賞受賞の理由にも触れていきます。
■ あらすじ紹介(ネタバレ無し)
『藍を継ぐ海』には、次のような五つの物語が収められています。
● 徳島
ウミガメの卵をなんとか孵化させようと奮闘する中学生の女の子。
自然の摂理と向き合いながら、彼女自身も成長していく姿が描かれます。
● 北海道
老いた父親の願いを叶えるため、隕石が落ちた場所を“あえて偽る”身重の女性。
宇宙から来た隕石と、親子の時間の交差が心に残る物語。
● 山口
伝説の萩焼の土を探すため、島にやってきた元カメラマンの男。
再出発の物語であると同時に、大地が積み重ねてきた長い時間と向き合う章。
そのほかにも、海・空・火山・地層といった自然の営みを背景にした物語が続き、
読者は「人間は、この大きな世界のほんの一部にすぎない」という感覚を、心地よい形で味わうことになります。
どの物語も最終的には「未来へ続く気づき」を示してくれる――そんな連作短編集です。
■ 読後の感想|人の心と自然の“時間”が美しく溶け合う一冊
読み終えたあと、まるで海の底にゆっくり沈んでいくような、静かで深い余韻が残りました。
伊与原さんの作品の魅力は、科学的知識が“説明”としてではなく、
登場人物の心を照らす優しい光として機能しているところだと思います。
・宇宙の時間
・大地の堆積
・海を渡る生き物の循環
・伝統工芸に宿る文化の記憶
これらすべてが、人間の短い人生と重ね合わされることで、
「生きる」ということの輪郭がはっきり見えてきます。
また、徳島・北海道・山口と、各地の空気感の描写が鮮やかで、
旅をしているような読書体験ができるのも本作の大きな魅力でした。
■ 第172回直木賞受賞のポイント
本作が直木賞を獲得した理由として、特に評価された点は以下のとおりです。
● ① 科学的知見を“物語の血肉”にする力
科学が単に知識としてではなく、登場人物の人生や感情に深く結びついていることが高く評価されました。
● ② 五つの物語の完成度と統一感
それぞれ独立した短編でありながら、全体として大きなテーマ――
「自然の時間と、人間の時間」 が一貫して描かれている点が秀逸。
● ③ 風景描写と人物造形の緻密さ
その土地に生きる人々の歴史・文化・思いが丁寧に描かれ、読者に強い没入感を与える構成が選考委員に評価されました。
● ④ 現代文学としての“新しさ”
科学を軸にした人間ドラマという手法が、これまでの直木賞受賞作にはあまり見られないユニークさと新鮮さをもたらしたと言われています。
■ まとめ|自然と科学が教えてくれる“未来を見る力”
『藍を継ぐ海』を読み進めていくうちに、私たちが日々触れている自然の景色や、当たり前のように思っている地球の営みが、実はとてつもなく長い時間の中に存在しているのだと気づかされます。
ウミガメの命の循環、地層が積み重ねてきた大地の記憶、隕石が旅してきた宇宙の時間。
それらは、人間の一生では到底測れないスケールの出来事です。
しかし、その“気の遠くなるような時間”の存在を知ることで、
逆に、今の自分の生き方や選択が、どれほど尊くて一瞬の輝きなのか に気づく気がしました。
五つの物語に登場する人たちは、誰もが悩み、躓き、迷いながら生きています。
でも、海や空、大地という自然の大きな存在に触れたとき、
そっと背中を押されるように一歩前へ踏み出していく――
そんな姿がとても印象的でした。
第172回直木賞受賞は、まさに納得の一冊。
科学を扱いながら、こんなにも温かく、
“人が生きること”を優しく描いた小説はなかなかありません。
読み終えたあとに残る静かな余韻と、ふと空や海を見上げたくなる気持ち。
今年読んで本当に良かったと思える作品でした。






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